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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(す)371号 決定

少年 M

主文

本件再抗告を棄却する。

理由

本件再抗告理由第一点について。

所論中違憲をいう点もあるが、その実質は原決定手続そのものに対する非難ではなく、福井家庭裁判所の本件少年を特別少年院に送致する旨の決定手続の違法を当審で新らたに主張するものであつて、再抗告適法の理由と認め難い。(なお、所論弁護人選定お届は、福井家庭裁判所に本件係属以前被疑者の弁護人として福井地方検察庁に提出されたものであるから、少年法一〇条、少年審判規則一四条により改めて附添人を選任しなければ、同弁護人をもつて当然に附添人であるということはできない。)また、判例違反をいう点は、所論判例は本件に適切でないから、前提を欠き採ることができない。

同第二点について。

所論は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張に帰し、再抗告適法の理由と認められない(なお、原決定は、前記福井家庭裁判所の送致決定に対する抗告についてなされたものであるから、少年であるか否かについても、右送致決定当時を標準とすべきものであるこというまでもない。)。

よつて、少年審判規則五三条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

少年の親権者母Hおよび弁護人Oの再抗告申立

第一点

一、原決定は抗告人の抗告趣意を排斥して第一審の決定を維持したのである。

しかし少年法第二十二条は審判は懇切を旨としなごやかにこれを行わなければならない旨を規定し同少年審判規則第一条、第二項にも調査及び審判その他保護事件の取扱に際しては常に懇切にして誠意ある態度をもつて少年の情操の保護に心がけおのづから少年及び保護者等の信頼を受けるよう努めなければならないと規定している。

二、附添人は成人の刑事事件の弁護人の立場にあり且つ少年の保護に当るものである(規則第十四条、第十九条、第三十条)従つて審判証人訊問については附添人を立会わしめ万全を期すべきである。

三、然るに第一審は昭和三十二年二月五日附で弁護人選任届が提出され記録に編綴されているのであるからその審判証人訊問等に附添人を立会わせて少年の保護に遺憾なからしめるべきであつたのであるに拘らず右弁護届を受理し記録中に保有しながら偶々附添人届と名称が違つているというので実質上の附添人の立会を拒否して証人訊問審判を遂行したのは酷に失するという主張を原決定は一顧も与えなかつたのである。

四、公判期日を私選弁護人に通知せず国選弁護人の弁論のみ聴いて即日審理を終結し判決宣告期日に判決を云渡した場合弁護権の不法な制限であつて判決に影響を及ぼすべき法令の違反であるとして原判決を破毀し御庁昭和二六年(あ)第三一六二号昭和二十八年七月三十一日第二小法廷は判決しておられる。

本件の附添人に関する御判決ではないが同趣旨であること勿論でありかかる届出があるのに之を看過することは少年の保護に最善をつくしたものとは云えないのみならず少くとも前陳少年法並に同規則に所謂懇切を旨とした取扱いでないことは明白である。従つて、憲法第三十七条第三項にも違反するのである。

五、然らば原決定は御庁の判例に違反し憲法に違背する第一審決定を維持し抗告人の抗告の趣意を不当に排斥した違法があるので破毀されなければならない。

第二点

一、原決定は昭和三十二年三月三十日附であるが同決定が少年及び抗告人に告知されたのは同年四月十日で既に少年は当時成年に達していたのである。

二、本件事案の内容は左の通りである。

(イ) 少年の犯罪事実は認めて争わない処であるがその内容は原決定に摘示する如く水道の量水器箱四個を窃取したものである。

その処分代金は合計千九百六十円(一個四百九十円)である。

今日の経済事情に於ては最も低額に属する窃盗事案の一つである。

而も屋外にあるものの窃取であり所謂手口としては最も簡単なものである。

決して悪性の程度深刻なものではない。

(ロ) 右盗品の買受人木村重雄はその買受の際形状その他の関係から特種品であることに気附き盗品であるの情を知つていたのみならず同人の供述によればかかるものを窃取して来てはいけない旨を申しておりながら買受けたのである。

結局少年の犯罪を助長した結果となつたのである当初から買受けを拒絶し訓戒してくれたなら本件は最少限度(一回分だけ)に止まつていた筈である。

三、右事案に対し原決定は少年の性行前歴境遇犯罪の状況など諸般の状況に徴すれば第一審の処分は相当であると判示して抗告趣意を排斥したのである。

四、然し原審へ第一審決定以後に弁償に関する書証を提出し証人S、舟木福井保護看察所長等の証人訊問の申請したのであるが一顧も与えず原審は前陳の如く決定したので少年法並に同規則に所謂懇切を旨とする取扱は全然しなかつたのである。

五、本件が成年に対する刑事事件とすれば必ず弁護人を附することとなり種々の証拠調が申請され十分な審理がなされたであろうことは明白である。

而して事案の内容被害の程度等に徴し執行猶予の恩典に浴したであろうと推察される。

六、本件に於ては少年に対し一度も保護観察に附せられたこともなくよき保護司の指導教化により更生し改化遷善される機会は与えられなかつたのである。

七、かくして前陳の如く少年が成年に達した後に原決定が告知されたのである。

換言すれば裁判宣告が成年に達した後になされたと同一の結果を生じたのである。

八、かかる結果は憲法第三十七条に違背し、又同第三十四条に違背し弁護人に依頼する権利を与えられることなく原審決定の告知と同時に拘禁されたことに帰し何れにしても原決定は破毀さるべきである。

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